嵐の夜は不思議だ。
窓を叩く雨音がまるで誰かの言葉みたいに聞こえるのに、その意味だけは最後まで分からない。空は激しく揺れているのに、どこか静かで、世界そのものが大きな夢を見ているような気さえする。
稲妻が一瞬だけ夜を照らすたび、見えてはいけない記憶の輪郭が浮かび上がって、次の瞬間には何事もなかったように闇へ溶けていく。たぶん大切なのは、その光の中に何があったのかじゃなくて、何かがあった気がしたことなんだと思う。
風は行き先も告げずに通り過ぎる。それなのに、どこかへ連れて行かれそうな予感だけを残していく。だから人は嵐の音を聞きながら、まだ起きてもいない未来を懐かしむのかもしれない。
そして嵐が去った朝には、何も変わっていない景色が広がっている。それでもなぜか、昨夜失くしたはずの何かが、最初からそこにあったような気がするのだ。何を失くしたのかも分からないまま。