……あれは、ちょうど去年の夏の終わりのことでした。
夜も更けた午前二時頃、私は自室のベッドで、ぼんやりと天井を見つめていたんです。ジメジメとした暑い夜で、妙に寝苦しかったのを覚えています。
ふと、部屋の隅の暗がりから、「……カサッ、カサカサ……」と、奇妙な音が聞こえてきたんです。
気のせいかと思いました。でも、音はやみません。それどころか、だんだんこちらに近づいてくる。心臓の音がバクバクと五月蠅く鳴り響き、冷や汗が背中を伝いました。まさか、出るのか……? 怖くて布団を頭までかぶり、ガタガタと震えながら息を潜めていました。
どれくらい時間が経ったでしょうか。音は、ついに私の枕元でピタッと止まりました。
「いよいよだ……」
覚悟を決めて、ゆっくりと、恐る恐る布団をめくりました。薄暗い視界の先、そこにいたのは――。
畳の上を、全裸のミミズが、ものすごいスピードで直立不動のまま全力疾走していました。
……それだけです。いや、本当にそれだけなんですけど、夜中にそれを見た時のシュールさといったら、今思い出しても背筋が凍るような、凍らないような、そんなどうでもいい夏の日の思い出です。